人に何かしてあげること 「その1」
私は、比較的やさしい、思いやりのある人間だと自負していた。
長女で、忙しい両親に代わって妹や弟の面倒をみてきたことが習い性となったのか、頼まれごとをされれば、なんでも引き受けてしまうし、少しばかり自分の時間や労力を費やすことになっても、それを惜しむ気持ちにはあまりならない。
だから他人からは、面倒見がいいとか、気配りがあるとか、やさしいとか言われ、そう言われればもちろん悪い気はしないから、自分でも何となくそんな気になっていた。
そんなある日のことである。食事中に私は、友人から意外なことを言われた。共通の友人の窮地を見かねて、私が一肌脱いだ経緯を話し終わった時、彼は小さく溜め息をついて言ったのだ。
「君のやさしさってさ、自己満足的なところがあるよね」
私はカチンときた。「どういうことよ、それ」
「いや、だからさぁ、君は確かに相手のために何かをしてあげているんだろうけど、結局それは、自分の美学をまっとうするためって感じが、ときどきするんだよね。」
彼は言いにくそうに、けれどもきっぱりと私に言ってのける。
私は猛然と反論しはじめた。
「何かしてあげて、それで少しばかりこちらの気分がよくなったら自己満足なの?やさしくしてあげよう、と心掛けていることをしたのに、それは自分の美学を遂行したにすぎないって言葉で片づけるの?それって、あんまりじゃない。もちろん私は神でも仏でも聖人でもないんだから、そりゃあ無垢な心でやってる訳ではないけど、相手のことを思ってやっているのは事実よ」
黙ってしまった彼の前で、私はひたすら言葉を続けた。
「百歩譲って偽善でもいいじゃないの。偽善でやさしくできるほうが、何にもしないより少しはましでしょ?能書きばかり言って、あなたみたいに何もしない人っていうのが一番始末が悪いのよ」
こちらもついつい興奮して、刃の鋭い言葉を投げつけてしまう。彼は苦笑して私を見た。
「ごめんごめん。べつに君を批判してるわけじゃない。人に何かしてもらいたいってことばかり求めている人が多い中で、君みたいにしてあげることを喜べる人は、偉いと思ってるよ。ただ……。 そこで立ち止まっているのは君らしくないと思ってるだけ。」
話はそこで終わり、気まずいまま私たちは店を出て、ほとんど会話をすることなく駅まで歩き、そしてそのまま別々の電車に乗った。下り電車はまだ混んでいて、私は吊り革にぶら下がりながら、さっきの友人の言葉を思い返した。腹は立つのだが、何となく気になる。残念だが心の奥底が、どこかで彼の言葉を認めているような気もしはじめていた。
----------------------------続く
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「いや、だからさぁ、君は確かに相手のために何かをしてあげているんだろうけど、結局それは、自分の美学をまっとうするためって感じが、ときどきするんだよね。」
彼は言いにくそうに、けれどもきっぱりと私に言ってのける。
私は猛然と反論しはじめた。
「何かしてあげて、それで少しばかりこちらの気分がよくなったら自己満足なの?やさしくしてあげよう、と心掛けていることをしたのに、それは自分の美学を遂行したにすぎないって言葉で片づけるの?それって、あんまりじゃない。もちろん私は神でも仏でも聖人でもないんだから、そりゃあ無垢な心でやってる訳ではないけど、相手のことを思ってやっているのは事実よ」
黙ってしまった彼の前で、私はひたすら言葉を続けた。
「百歩譲って偽善でもいいじゃないの。偽善でやさしくできるほうが、何にもしないより少しはましでしょ?能書きばかり言って、あなたみたいに何もしない人っていうのが一番始末が悪いのよ」
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「ごめんごめん。べつに君を批判してるわけじゃない。人に何かしてもらいたいってことばかり求めている人が多い中で、君みたいにしてあげることを喜べる人は、偉いと思ってるよ。ただ……。 そこで立ち止まっているのは君らしくないと思ってるだけ。」
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